【投稿者:ひかる(仮名)/40代・男性・和歌山県】
人生の中で最も悲しく、悲惨だった出来事。それは、微笑みの裏に隠れていた我が家の壊れつつある真実に気付いた瞬間だった。
僕の家庭は、一見すると何の問題もない、ごく普通の家庭に見えた。父はそこそこ成功したサラリーマンで、母は専業主婦として家のことをきっちりとこなしていた。妹も明るくて、友達も多い人気者だった。僕たちは、家族揃って毎年キャンプに行って、クリスマスにはパーティーを開いて近所の人を呼んだり
[member]して、それなりに楽しい日々を過ごしていたと思う。でも、それはただの表面的な幸せだった。
高校生のころ、僕はとある出来事がきっかけで、家族の隠された真実に気付くこととなった。夜遅く帰宅したある日、家の中が妙に静かだと感じた。いつもはテレビの音や笑い声がしているはずなのに、その日は重苦しい沈黙が家を包んでいた。リビングに足を踏み入れると、父と母が深刻な顔で向き合って座っていた。僕に気付いた母は、慌てて微笑んで「おかえり」と声をかけたが、その微笑みの裏に何か隠していることは明らかだった。
その時気付くべきだった。父の出張がこのところ増えていたこと、母が時折見せる疲れ切った表情、妹が家にいることを避けるかのように外出するようになっていたこと。ひび割れ始めている家族の様子を見ないふりをして、自分の生活に忙殺されていた僕は、鈍感だった。
ある日、父と母が僕と妹を前にして「大切な話がある」と言ってきた。嫌な予感が頭をよぎった。案の定、父は突然会社を辞めたこと、収入がなくなり貯金を切り崩して生活している状況だということを告げた。心の中で何かが崩れ落ちる音がした。家族を支える柱の一つが崩壊していくのを、ただ呆然と見ていることしかできなかった。
その後、家族の雰囲気は一気に悪化した。父は常に不機嫌で部屋から出てこなくなり、母はそんな父にイライラをぶつけては泣いていた。僕も妹も家庭の居心地の悪さに耐えかねて、家に帰るのが辛くなった。家族団らんだったはずの食事の時間も、今や沈黙が重苦しく漂う時間になっていた。
何とかしようとする気持ちはあったが、どうすることもできない自分に腹が立って仕方なかった。友達に話しても、結局のところ他人事でしかない。誰も理解なんてできないだろう。心の中で叫び続ける「助けてくれ」という声は、誰にも届かないまま消えていくばかりだった。
時間が経てば少しはマシになるかと思ったが、現実は甘くはなかった。父の心は完全に閉ざされ、母の心も疲弊しきっていた。妹も希望を失っていった。笑顔の仮面はもう誰にも通じない。いつかまた家族全員で笑い合える日が来ると信じたかったが、家の中にいるとその希望が崩れ落ちるのを感じていた。
結局、家族の崩壊を止めることはできなかった。微笑みの裏に潜んでいた壊れつつある我が家の真実は、僕の心の中に深い傷を残したままだ。大好きだった家族に戻れる日なんて、もう来ないのかもしれない。残されたのは、ただただ悲しむだけの現状だけだった。[/member]