病院のベッドで知った、私をむしばむ静かなる侵略者

【投稿者:ユズキ(仮名)/30代・男性・新潟県】

私は病院のベッドに横たわり、天井の白い塗装をぼんやりと見上げていた。少し前までは、こんなところにいるなんて夢にも思わなかった。私の脳裏には、まだ昨日までの普通の生活がしっかりと残っていた。

ある朝、目が覚めると体が重く、どことなくおかしい気がした。最初はただの疲れだろうと考えていた。しかし、次第に日常生活に支障をきたすほど体調は悪化していった。家族の勧めもあり、ようやく病院へ足を運ぶことにした。
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検査結果を聞くために診察室に入ったときのことは今もはっきりと覚えている。医者の口から告げられた病名は「がん」だった。その瞬間、時間が止まったように感じた。私の体には静かに、そして着実に侵略者が巣食っていた。抑えがたい恐怖と共に、自分が形の見えない何かに蝕まれているという実感が全身を貫いた。

それからは治療の日々だった。化学療法、副作用、体のだるさ、終わりの見えない苦しみ。医者の説明を聞くたびに、次第に心が折れていく自分を感じた。それでも戻らない日常を夢見て、家族のために頑張ろうと努力したが、その努力は慢性化する痛みと隣り合わせだった。

周囲からは「頑張れ」「大丈夫だよ」という言葉を数多くもらった。それが嬉しい反面、どこか負担にも感じ始める自分がいた。元の自分には到底戻れないことを受け入れるのが、こんなにも苦しいとは思わなかった。

病室には淡々とした医療機器の音が響く。まるで私の心を映し出しているかのようだった。日が沈むたびに、今日この一日を無事に乗り切れたことに安堵する反面、自分がどこへ向かっているのかますます分からなくなった。遠くで子供たちの笑い声が聞こえると、かつての日常がどれほど貴重なものだったかと痛感せずにはいられない。

家族のためにと思い励ましの言葉を受け入れようとするが、そのたびに自分自身の無力さと向き合う羽目になる。あの頃にはもう戻れない――その現実が私をむしばんでいる。

透明な涙が流れることもあるが、それを誰に見せるでもない。ベッドの上で一人考える時間は、果たしてどれほど続くのだろうか。いつか、この病にも克服できる日が来るのだろうか。今はただ静かに、その日が来ることを願うしかない。

心の叫びは、静かに心の中で繰り返される。騙し、騙し延命しているこの日々が続く中で、結局この侵略者には勝てないのかもしれない。それでも、生きるために、今日を生き抜くことに変わりはない。

この現状をただただ悲しむしか選択肢が残っていないことが、何よりも辛い。未来への希望を見出すことのできない自分が情けない。私たちは何と無力なのだろう。この終わりの見えない苦闘に、答えがあるのかさえ今はわからない。ただ、今は静かに生き延びるだけだ。[/member]

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