【投稿者:サクラ(仮名)/20代・男性・栃木県】
あの日のことはいまだに心に重くのしかかっています。ある晩、僕の家族は、何気ない夕食を囲んでいました。母が作った温かいシチューと、父が持ち帰った特製のパン。それが、その日々繰り返されてきた日常の一端を壊す瞬間になるとは想像もしていませんでした。
食事が進む中で、父がゆっくりと重い口を開きました。「転勤が決まった」。それはいつか訪れるかもしれない変化だと頭でわかっていたはずなのに、心の奥底では受け入
[member]れたくない事実でした。父の仕事の状況は理解していたつもりです。でも、彼が遠い街へと移ることになるという現実にはどうしても適応できませんでした。
静寂が部屋を包み、沈黙の中で時間が止まったように感じました。母は無理に微笑もうとしたけれど、お湯に浮かぶ脂肪のように、その薄い笑顔は見るも無惨に崩れ落ちました。妹は何か言いたそうにしていましたが、その小さな声は言葉を選びきれず、ただ不安の影を漂わせていました。
僕は何も言えずにいました。言葉が喉に引っかかり、それを飲み下すことも、吐き出すこともできずにいました。父が居なくなったら、この家族はどうなるのだろう。一家の支えである存在がいなくなるという現実に、僕の心は耐えられそうにありませんでした。
それ以降、家の中には見えない亀裂が広がっていくように感じました。普段の会話も、心から楽しめなくなり、母と妹の疲れた表情を見ると、心が痛みました。日々が過ぎるごとに、このまま家族という形が無くなってしまうのではないかという恐怖が押し寄せてきました。
夜、ベッドに入ると、いつもと変わらないはずの天井が異様に遠く感じられ、孤独感が肩に重くのしかかりました。部屋は真っ暗で、静まり返っているのに、心の中では嵐が吹き荒れていました。どうすることもできない無力感に押しつぶされそうでした。
家族との間に確かにあったはずの絆。それが見えないうちに崩れ去っていくことが、怖くて悲しくて仕方ありませんでした。この時点で僕は、理想の状態には戻れないのだと分かっていました。このまま何もできずに、時間だけが過ぎ去るのを待つのかと考えると、心が張り裂けそうで、どうしようもない自分の無力さに苛立ちさえ覚えるのです。
その晩、心の奥に燻る叫び声が静かに漏れ出て、僕はただ、布団に顔を埋めてじっと耐えることしかできませんでした。分かっていたつもりの「家族」とはこんなに脆いものだったのかという事実が、今さらながら重くのしかかり、眠れぬ夜に何度となく悔しさと寂しさを味わいました。
不安と期待の間で揺れる毎日。変わってしまった日常に慣れようとすると同時に、かつての穏やかな日々を取り戻したいという思いが押し寄せます。心の叫びはやむことなく続き、僕の中でその声はどんどん大きくなっていく一方です。
あの静かな夜、この家族の絆が音を立てて崩れていく瞬間、僕はただただその喪失の痛みに身を任せるしかありませんでした。それでも、前を向かないといけない。でも、その方法が見つからないまま、今日もまた悩み続けています。家族は大切だと思うからこそ、この心の痛みは一生消えることはないでしょう。[/member]