【投稿者:「ヒカリ」(仮名)/30代・女性・岩手県】
子供のころ、私の家庭は一般的な家族だと思っていました。母はいつも優しく、娘である私はその愛情に包まれて育ってきました。母と私は二人三脚でどんな困難も乗り越えられると信じていました。しかし、それはただの幻想に過ぎなかったのです。母がかくしていた秘密が、私たち親子の絆を根底から崩していくとは思いもしませんでした。
私が高校生になるころ、父の仕事の都合で引っ越すことになりました。新しい街、新しい友人、
[member]そして新しい生活に期待と不安が入り混じった日々を過ごしていました。そんなある日、偶然母の部屋で古い手紙を見つけました。何気なく読み始めたその手紙には、私の知らない父親の名前がありました。それは私の心を凍りつかせるには十分すぎる内容でした。私はすぐに母に問いただしました。母はしばらく黙っていましたが、やがて崩れるように真実を語り始めました。
母は学生時代に別の男性との間に私を授かったと言うのです。しかし、その男性との関係は長続きせず、私が生まれる前に別れてしまったとのことでした。その後、現在の父と出会い、私の本当の父として迎えることになったと。母は「これが最善だった」と言いましたが、それが私にとってどれだけの衝撃で、心の傷になるかを考えたことはなかったのでしょう。
その日から、私は自分の存在価値を疑うようになりました。母の言っていた愛情は嘘だったのか、本当の父はどこにいるのか、なぜこんな大事なことを隠されていたのか。考えれば考えるほど、答えのない問いが頭を巡り、心の余裕はどんどん奪われていきました。私の人生は、幻想の上に構築されていたに過ぎなかったのです。
母は「愛している」と言い続け、私を抱きしめてくれましたが、その抱擁もどこか空虚に感じました。私は母を許さなければと思う一方で、どうしても母を信じ続けることもできませんでした。だれもが羨むような親子関係だと自負していた私は、いつしか母と向き合えなくなり、その距離は日に日に広がっていきました。
もし母が、早い時期に話してくれていたら、もっと別の未来があったのかもしれないと何度も考えました。しかし逆に、すべてを知ったことで今のような不安と葛藤に巻き込まれることもなかったのではないかと苦しみました。結局、答えは出ず、ただただ傷ついた心を抱えながら生きていくしかありませんでした。
今、私は成人して実家を出ていますが、あの時の告白から母と心から話すことは一度もありません。物理的な距離が離れたことで、むしろ心の距離はさらに深まってしまいました。かつて信じていた家族の形はもろくも崩れ去り、私は一人ぼっちになってしまったような気持ちを抱え、生き続けているのです。
親は子供に対して無償の愛を注ぐと言います。でもそれが嘘から始まった愛であるなら、果たしてそれは本物の愛と呼べるのでしょうか。それを確かめるすべが今の私にはありません。ただただ、あの手紙を見つけたあの日に戻り、何も知らないまま母の元で笑顔でいられた自分に戻れたらどんなに良いだろうと儚い願いを抱くだけです。私の心にあるのは、決してぬぐえない悲しみだけです。[/member]