【投稿者:ユズル(仮名)/30代・男性・大阪府】
健康に関しては割と自信があった。毎日ランニングしていたし、食事にも気を使っていた。それでも、あの日の診断結果を聞いたとき、まるで足元から崩れ落ちるような感覚に襲われた。
「あなたの心臓には異常があります」。医師の言葉は静かに、しかし確実に僕の人生を変えてしまった。その時の感情は今でも鮮明に覚えている。何か大きな鉄球が胸の中に投げ込まれたような、そんな、とても苦しい感覚が体を襲った。
「健康神話
[member]」ってやつを信じていた。僕が思っていたのは、規則正しい生活をしてれば、健康は守れるものであるということ。でも、あの日その神話は音を立てて崩れ去った。どれだけストイックに頑張っても避けられないことなんてあるんだと、思い知らされた。
病名は、拡張型心筋症。僕はその日を境に、健康な身体を過去形で語らなければならなくなった。自分の状況を説明している医師に対して、ただ呆然とすることしかできなかった。それまでの自分にとって「病気」というのはどこか他人事だったし、恐れるべきものなんてなかった。そんな俺が、まさか今こうやって薄暗い診察室で、全く知らなかった単語を受け入れなければならない状況にいるなんて想像もしていなかった。
帰り道、歩いているけど地面が揺れているような気がした。一歩一歩がやたらと重く感じられる。空を見る余裕なんてないし、じっと見詰める着慣れた風景がどこか違って見える。何もかもが非現実に思えた。
家族に知らせなきゃと思っても、電話は重く、言葉は出てこない。家に帰り、妻の顔を見た時、涙が止まらなくなった。彼女は何が原因かすぐに分かって、抱きしめてくれたけど、それがまた辛かった。ただ頷くしかできなかった。妻も、子供達も我が事のように泣いてくれて、ほんの少しだけど救われた気がした。でも、その分だけ余計に自分が情けなく、彼らに申し訳なく思った。
これからどうなるかもわからない。短期的な治療があるにせよ、これまでの普通の生活はもう戻らないかもしれない。大好きなランニングも、家族との旅行も、子供たちと全力で遊ぶことすらできないかもしれない。それに突きつけられた瞬間、頭が真っ白になった。
その夜ベッドに入っても、眠れるわけがなかった。天井を見つめ、ただただ心臓の音を聞いていた。それが僕が生きている証であり、同時に不安を煽る音でもある。「どうして俺が?」という問いだけが頭を巡り続ける。
けれど、答えなんか出やしない。今、この瞬間も心臓が弱っていってるかもしれない思うと、不安で押しつぶされそうになる。「なんとかなるさ」なんて慰めは何の役にも立たない。夜が怖いし、考えるのも怖い。でも避けられない現実が、この心臓と共にある。それだけは確かだった。
結局、辛さというのは消えない。誰に何を言われても状況は変わらないし、まだ受け止めきれていない。普通なら当たり前のことがこれからは難しくなる。何ができるのか、できないのか探って行かないといけない。この現実に向き合ってゆく体力と気力が自分にあるのか、そんなことすら分からない。好きなことも、楽しいことも、全て失ってしまうあの恐怖の診断の日から、僕はただただそのことを悲しんで、嘆き続けるしかない。[/member]