【投稿者:てつや(仮名)/50代・女性・大阪府】
私がこの世で一番愛した人――それは父でした。小さい頃からずっと私を守ってくれた優しい父、どんな時でも笑顔を絶やさない父。でもその笑顔の裏側には、私が想像もしなかった「秘密」が潜んでいました。
高校生のころ、私は父が何か隠していることを薄々感じていました。急に仕事が忙しいと家を出ることが多くなり、帰宅しても目が合わないし、会話も減り、私や母に向ける眼差しから暖かさが消えていくのがわかりました。それ
[member]でも私は、父が忙しいだけだと思い込みたかったのです。
ある日、母が突然泣き崩れました。私は何が起こったのか理解できず、その場に立ちすくむことしかできませんでした。母は声を絞り出すようにして言いました。「お父さんには、別の家族がいたのよ」と。その時、私の頭は真っ白になり、心臓がバクバクと音を立てていました。世界が音を無くし、視界はかすんでいきました。
父が他の女性と関係を持ち、さらに子どもまでいることを知った時の衝撃は、私の人生観を一変させました。「なんで?」という言葉が頭の中で渦巻き、何度も質問をぶつけようとしたけれど、喉が痛くて声が出ませんでした。私の知っている父はどこへ行ってしまったのか、目の前の現実がただただ怖くて、受け入れたくありませんでした。
その後、家庭での空気はどんどん重くなり、誰もがみな疲れていました。晩御飯の席では、沈黙が支配し、目を合わせることができない日々が続きます。母も私もお互いにどう接するべきなのかわからなくて、ただ時間を過ごしているだけでした。
私の心の叫びは誰にも届くことがありませんでした。友達に相談しようとしても、「普通の家族」を装ってしまう自分がいました。こんなみじめで恥ずかしいこと、他人に知られるわけにはいかない。この秘密は私たち家族だけのもの、誰にも明かしてはいけない、そう自分に言い聞かせていました。
その後、父の家のドアは静かに閉ざされました。思い出のたくさん詰まった家が、ただの「空き家」となってしまったかのように、そこにはもう温もりが残っていませんでした。父はそのまま家を出て行ってしまい、私たちの家庭は目に見えない裂け目によって分断されました。どう修復するべきか、私は答えを見つけられないまま、日々の生活をただ送ることしかできませんでした。
今でも私は、あの扉の向こう側にあった「家族の真実」を思い出します。許しや理解を求めようとも、裏切られた心は簡単に許さないし、あの悲惨な現実が変わることはありません。ただただ悲しさが心に残り、それが重く私を支配します。
時は流れても、その記憶は消えることはなく、心の奥深くでくすぶり続けています。家族とは何なのか、本当にわかっていたのか。あの時、あの瞬間に戻れるなら、何かを変えることができたのでしょうか。そんなことを、ただぼんやりと考えてしまう自分がいて、結局何も変えることのできない現実が、また私の心を悲しくさせるのです。[/member]