「病院のベッドで知った、体が教えてくれる真実の絆」

【投稿者:はるき(仮名)/40代・男性・秋田県】

僕が体験した中で一番悲しくて悲惨だったこと、それは母親が病院のベッドにいる姿を見たときのことだ。母は長い間、ガンと闘っていた。最初は信じられなかったし、現実を受け入れることなんて到底できなかった。でも、徐々に母の身体が衰えていく姿を目の当たりにする度に、それが間違いないということを受け入れざるを得なかった。母は強い人だった。自分の病についてあまり語らず、いつも僕たち家族を気遣ってばかりいた。


[member]る日、主治医から「今後の治療はもう難しい」と告げられた時、頭が真っ白になった。何も考えられず、ただその言葉が頭の中で反響し続けた。母の病室に戻ると、彼女が微笑みながら「大丈夫、大丈夫」と僕を安心させようとした。だけどその微笑みがあまりにも悲しかった。それが彼女の「最後」が近づいていることを示すものだとは、その時ただ感じるだけだった。

病院の白いベッドに横たわる母の姿は以前の彼女とはまるで別人のように見えた。病は彼女から体力だけでなく、生きる力まで奪っているのだと実感させられた。母の手を握りながら、その温もりが以前にも増して大切に思えた。彼女は僕にとっての支えだった。幼い頃からどんな時も僕を助け、導いてくれた。その彼女が目の前にいるのに、何もできない自分に対する悔しさと悲しさが、同時に押し寄せて来るのだった。

夜が訪れる度に嫌になる程怖かった。目を覚ますと、隣のベッドが空になっているんじゃないかという恐怖が、何度も僕を眠れなくした。そして、ある朝、それは現実となった。母のベッドに行くと、看護師たちが慌ただしく動いているのが見えた。直感的に「その時」が来たことを悟った。

何もかもがスローモーションのように感じられる中、彼女の手を握りしめた。彼女の手の温もりはまだそこにあったが、その重みが次第になくなっていくのが、何よりも辛かった。その瞬間、僕の中で何かが崩れ去っていく音が聞こえた気がした。

母の死を看取ったあと、何時間も何も考えられなかった。涙も出ず、感情が麻痺したようだった。ただただ彼女のいない世界が、どれだけ虚しいものかを痛感した。それは一生慣れることの無い現実だと、その時肌で感じた。

家に帰ってきても、母の気配がそこにないことが信じられなかった。彼女の日常が詰まっていたはずの場所は、何もかもが思い出となり、そこに刻みつけられているのは、取り返しのつかない悲しみだけだ。彼女がいないことをどう受け止めればいいのか、分からない。

今でも時折、彼女の笑い声や姿を思い出す。幾度もその記憶が頭をよぎる度に、それは涙となって溢れ出し、僕を苦しめる。でもこの苦しみは、独りよがりのものではないと分かっている。彼女が残してくれた温かさと、愛情だけが、今でも僕を支えていることを強く感じる。

生きていることが、時にこんなにも大変で、こんなにも悲しいことだなんて、思いもしなかった。母が教えてくれた愛と強さを胸に、彼女なしの生活をどう立て直すか、それを考える毎日だ。そして、それ以上に、彼女がどれだけ大切な存在だったかを、僕は今改めて知っている。彼女がいたからこその、今の僕がある。それを忘れることなく、彼女に恥じない自分を目指していくこと、それが僕にできる唯一の彼女への恩返しなのだろうと、そんな風に思っている。[/member]

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