【投稿者：さくら（仮名）／20代・女性・群馬県】
子どもの頃、私の家族は一見ごく普通の家庭に見えました。食卓にはいつも温かい料理が並び、家族全員が揃って座っていました。表面上は笑顔が溢れ、幸せそうな家庭だと誰もが信じて疑いませんでした。でも心の奥底では、深い悲しみと苦しみが潜んでいたのです。今だからこそ、この偽りの温かさの裏にどれだけの重圧と孤独が隠されていたかを振り返らずにはいられません。
私の父は頑固で完璧主義者でした。彼の目指す「理想の家
[member]庭」は完璧な規律と秩序で成り立ち、感情の表現は厭われるものとされていました。父の顔色を伺いながら、毎日を過ごす日々。それが当たり前であり、それに異を唱えることなど考えたこともありませんでした。食卓を囲むその笑顔の日々は、私たちにとっては一種の義務で、現実逃避の劇場にすぎなかったのです。
母は、そんな父の影に隠れて私たちの盾であり、希望であり続けました。彼女はいつも、何とかして家庭を受け入れるための居場所を作り出そうと必死でした。しかし、母の目にはどこか憔悴した疲労が漂っていました。それが私にとって何を意味するのか、小さな頃は理解しきれなかったです。それでも彼女は私たちに笑顔を見せ続け、その場を取り繕う努力を止めませんでした。
しかし、ある時私は彼女の涙を見ることになりました。それは夜、私がリビングに忘れ物を取りに戻ったときのことです。母は静かに涙を流し、声をひそめて泣いていました。その姿を見たとき、強烈なショックが胸を貫きました。その瞬間、偽りの平和など存在せず、私たちの家庭は壊れているのだと気付きました。それに気づくのが辛すぎて、私は部屋に戻らず、リビングの片隅で静かに座り込んだのです。
次の日から、母は何もなかったかのようにまた笑顔で私を迎えてくれましたが、私の視野は開けてしまいました。母の涙の理由を探るうちに、私が気づかない振りをしていた隠された真実が次々と見えてきました。それらはすべて、父の期待と重圧のひずみから生じていたもので、本当の温かさとは程遠いものでした。
偽りの笑顔を浮かべる日々が続く中、心の中では「どうして私たちはこんな生活を続けなければならないのか」という叫びが次第に大きくなっていきました。明らかに偏った父の価値観の中で私たちは生き続け、その重みに耐えきれずにいる自分たちを誰も救ってくれないと分かっていても、もがくことすらできずにいたのです。家庭の中で育った愛情のゆがんだ形を、外の世界に向けることなど怖くてできませんでした。
今でも、思い出すと心が締め付けられるような日々の記憶があります。「あの日々をどうにか正常なものだと考えようとしていた」と考えると、どこか自己欺瞞に近いものを感じずにいられません。それでも、それが私たちの唯一の「家族」だったのです。最後まで立ち行かなくなったそのときまで、自分の家が持つその形を疑うことは敢えてせずに生きる道を選んでしまっていたのだと思います。
そんな状況の中から解放された今でも、その過去が私の中に影を落とし続けています。「家庭の温もり」とは何か、「本当の愛」というものをどう受け止めればいいのかが曖昧になっています。この傷は、きっとこれからも消えることはないのでしょう。家族が歪んだ形でしか存在し得なかったという現実が、心に蓋をし続け、その蓋を開ければまた同じ痛みを感じるだけなのだと全てが悲しいまでに思えてきて仕方ありません。[/member]
