病室で告げられた運命の瞬間:健康を蝕む見えない罠

【投稿者:ユズル(仮名)/20代・男性・徳島県】

その病室は、まるで時間が凍りついたかのように静まり返っていた。時計の針の音だけが、やけに大きく耳に響いていた。いつものように医者と向き合って座っていた俺は、その日もどこか楽観的でいた。健康診断の結果です、と医者が淡々と言葉を量りながら、「私もちょっと驚いているんですが」と言葉を続けたあたりから、不安が胸に広がってきた。

「結果から言いますと、かなり進行した状態の癌が見つかりました。余命は…半
[member]年、いや、下手をすればそれより短いかもしれません。」その瞬間、心臓が鷲掴みにされたような感覚に襲われた。言葉を失うとはこういうことを言うのだと、正直これ以上ないくらいに理解した。

その場で泣き崩れたわけではなかった。むしろ、現実感がまるでなかった。ただ、「これが自分の人生の終わりなのか」という考えが頭を駆け巡るばかりだった。医者の説明が続く中、俺はただただ呆然と聞いているふりをしていた。その内容が、どれも頭に入ってこなかったんだ。

その日の帰り道のことは、今でもよく覚えている。空は晴れ渡っていたのに、まるで灰色に塗りつぶされたかのように色彩をなくしていた。周りの誰もが普通に日常を過ごす中、自分だけが時が止まったような錯覚に陥っていた。「何で俺が、どうしてこんなことに」そんな思いが頭を支配していた。

家に帰っても、何をする気力も湧かなかった。考えれば考えるほど、未来がきりもなく暗闇に消えていく。どうして今まで気づかなかったのか。健康には自信があったのになぜだ。もっと早く検査を受けていたら、状況は違ったのだろうか。そんな自問自答が、ひとつとして決着を見ないまま心の中を巡る。

友人や家族に話すには、あまりにも現実は重すぎた。彼らの顔が浮かび、笑顔が思い出されるたびに、次第に拭いきれない罪悪感に苛まれる。これからもずっと彼らと一緒に生きたいと思うたびに、自分の体がそれを許さないことが耐え難かった。

夜になると、一人で向き合うしかない現実が押し寄せてくる。寝床に入っても、瞼のシルエットはひとつも変わらない。未来のない暗闇がひたすらに広がっていくばかりだった。「なぜ俺が」その答えのない問いが、闇の中でこだまし続ける。隣で安らかに眠っている筈の妻の肩越しに、孤独感だけが募る夜もあった。

医師や周囲がどう言おうと、正直納得なんてできるはずもなかった。どれだけ望んでも、簡単に諦められるものじゃない。それでも現実は、容赦なく俺の体を蝕んでいる。そんな不条理の中で、癒されることのない傷を抱えたまま生きていかねばならないのだと、その現実だけが冷たく静かに広がる。

最後に、思うことはただひとつだ。一日の終わりに辿り着いた答えはなく、ただ流れる空白の時間が、どれだけ味気ないものかという悲しみだけが心を占め続けるのだ。日ごとに体が弱まっていく実感が増すたび、自分の存在が薄れていくような気がしてならない。今感じているこの痛みも、いつかは消えるのかもしれないが、それが早すぎる未来のことであることには耐え難いのが正直なところだった。成人して成熟し、人生の意味を知るために来た道が、こんな形で終わりを迎えるとは、到底信じがたいものがあった。つい先程受けたであろう、決して戻らない時間がただただ嘆かわしい。[/member]

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