【投稿者:リク(仮名)/50代・男性・愛知県】
家族は、常に僕にとっての心の避難所だった。だから、全てが変わってしまったあの日までは、僕の心に影が落ちるなんて考えたこともなかった。見てください、この一見幸せそうな家族写真。微笑んでいる僕たち家族の中に、こんな秘密があるなんて誰が想像しただろうか。
子どもの頃から、僕の家は典型的な日本の家庭で、父は会社員、母は専業主婦として僕ら兄弟を育ててくれた。経済的にも大きくは不自由せず、表面的には何不自由
[member]ない生活を送っていた。でもそれは、僕が「普通」を知らなかっただけかもしれない。
思い出すのは、小学校の運動会の時のことだ。家族皆でお弁当を囲み、笑い合う時間がとても幸せだった。あの時を思い出すたびに、柔らかな日差しと母のつくった卵焼きの甘みが蘇る。父はカメラ片手に僕たち家族の笑顔を写真に収めていた。その写真を今僕は見ている。幸せが満ち溢れている、と思っていたあの時の笑顔の裏にひそむ暗い思いに、あの頃の僕は気付く余地さえなかった。
ある日、僕が帰宅すると、普段と違う重苦しい空気が家に漂っていた。リビングに入った瞬間、その理由がわかった。テーブルに座る母の目が赤く腫れていて、その横には疲弊しきった姿の父がいた。二人が話す声が、部屋を重く包んでいた。ぼう然としていた僕に、母は低い声で夫婦としての問題について話し始めた。「お父さんは浮気をしてしまった」という衝撃的な事実を告げられ、僕の頭の中は真っ白になった。
信じられなかった。あの写真に写る父の笑顔も、その裏にこんな秘密が隠されていたのかと思うと、心が張り裂けそうになった。幸せだったはずの家族の基盤が音を立てて崩れ去るような感覚。それでも、僕は何もすることができない無力感に襲われた。
両親はそれからというもの、頻繁に衝突するようになり、その度に家の中は息苦しいほどの緊張感で満たされた。兄弟もそれを感じ、僕たちはなるべく干渉せず、逃げるようにそれぞれの部屋に閉じこもることが多くなった。
あの幸せだった運動会の日々が消えていく速度に、僕の心は追いつけなかった。毎晩、まぶたを閉じると、家族の笑顔が浮かび上がるが、その裏に隠された現実が心にのしかかる。なぜ、あの時もっと家族を助けられなかったのかと、自分を責める気持ちでいっぱいになった。
結局、両親は離婚することを決めた。誰もが幸せだったはずなのに、家族写真の中の笑顔に知らぬ間に染み込んでいた秘密。僕はその事実を一生背負っていくしかない。
現在も家族写真を見るたびに、心の奥底で隠し続ける悲しみがふつふつと湧き上がる。再び運動会のような幸せを、心から笑える日は来るのだろうか。この写真が取り戻せない時間と隠された現実の象徴として、今も僕を責め続ける。[/member]