【投稿者:ユキト(仮名)/30代・男性・群馬県】
生まれて初めて、人生のどん底というものを味わったのは、四十を目前にした時だった。家族には申し訳ないことをした、という思いは、今でも胸に渦巻いている。
何年か前から、会社での立場が不安定になり、とにかく何か手を打たねば、と焦っていた。ちょうどその頃、友人が投資の話を持ちかけてきたんだ。「簡単に儲かる」と甘い言葉を信じ、怪しむことなく飛びついた。最初は順調に見えたし、家内も「ちょうどよかった」と安心
[member]している様子だった。
だが、そんな幸運は長く続かなかった。投資先の会社が突然の倒産。資金は一瞬にして泡となり、それからはまるで奈落に突き落とされるようだった。借金が借金を呼び、どんなに頑張って働いても生活は一向に楽にならない。
借金の返済に追われ、家族には贅沢をさせてやれないどころか、食費を削り、あらゆる面で節約を余儀なくされた。息子の高校進学を控えた時期だったので、家内と何度話し合っても苦しい選択ばかりが迫ってくる。息子には申し訳ないが、学費の安い公立にしか行かせられない。それが現実だった。
周りからは「あんな家族と付き合うのはやめた方がいい」と後ろ指を差されるようになり、家族ぐるみで付き合っていた友人達も次第に疎遠になっていった。人が離れていくのは本当に辛かった。いや、辛いなんてもんじゃない。まさに孤立無援という状態。
家内は文句ひとつ言わず、毎日パートで働き詰めになりながらも明るく振舞ってくれる。それが余計に心に突き刺さるんだ。「ごめんな、こんなはずじゃなかったんだ」と何度も謝っても、「大丈夫だよ、なんとかなる」と微笑む彼女の強さが眩しかった。
息子だって、本当は友達に誇れるような家庭ではないと思っていたはずなのに、「お父さんのためにも僕、頑張らなくちゃな」と言ってくれた。どれほど救われた思いか、言葉にするのも難しい。
だけど、現実は容赦なく襲ってくる。不渡りが続き、家のローンも滞ってしまった。ついには家を売ることに。今でも不動産屋と契約を交わし、その場で涙ぐんだ家内の姿を思い出す度に胸が締めつけられる。息子には「僕たちの居場所がなくなっちゃうね」と静かに言われた。その言葉が重かった。
やれることは全てやったつもりだったけれど、どれも裏目に出るばかり。一体どこで間違えたのか。何がいけなかったのか、と悩み始めると眠れない夜を過ごすことになる。
担いきれない失敗を背負い込み、家族に不自由を強いた自分を責めずにはいられない。毎日が重苦しい。家族には笑顔が戻らず、ただ沈黙が漂う。家内の頑張りや、息子の成長を喜べる未来があれば、どれだけ救われるか。だが、そんな幸福は夢の又夢だ。どうしようもない、逃げ場のない現実が心を押しつぶす。
今、僕ができることといえば、彼らのために日々を生き抜くことだけ。でも、それだけじゃ足りない。申し訳なさと後悔が心を支配する中、静かに過ごしている。今はただ、生きのびることに必死で、将来を思い描ける余裕すらない。何とかして乗り越えたいが、どうにもがんばっても、ただ時間が流れてゆくだけの現実には、呆然とするばかりだ。[/member]