「静かなる家族崩壊:見えない絆の断絶」

【投稿者:アオイ(仮名)/30代・女性・山形県】

私は三人家族の中で育ちました。両親と私。その小さな家庭は見かけは普通で、一見すると平穏に見えました。小さい頃はそれなりに幸せでした。父も母も忙しく働いていたし、私は学校で友達と過ごす日々に沈んでいました。しかし、ある日を境に私たちの家族は静かに崩れ始めました。

母が逃げるように家を出て行ったのです。私が十五歳の冬のことでした。何がきっかけだったのか、私は未だによく分かりません。実は、その頃母は疲
[member]れ切っていました。私との会話も減り、笑顔も少なくなっていました。そして、父との口論が増えていたのも事実です。けれど、私はどこかそこに、家族の問題の真実を見ることを避けていたのかもしれません。

その日、学校から帰ってくると、母の姿がありませんでした。台所の机には一枚の手紙だけが残されていました。「ごめんね。しばらく家を出ることにしました」。それだけでした。それを読んだ瞬間、胸が一気に痛みで締め付けられ、目から涙が溢れました。悲しみとショックで動けませんでした。父にその手紙を見せると、彼はそれをしばらく無言で眺めていました。そして、「大丈夫だ、心配ない」とだけ言って、目を逸らしました。

その後の生活は一変しました。私は母の代わりに家のことをしなければならなくなり、父は毎日遅くまで帰ってきませんでした。私たちの間にはどんどん溝ができ、会話も極端に減りました。私が母のことをどうしても話題にすると、父は不機嫌になるのでした。私は家の中で声を潜めて過ごすようになりました。父の厳しい顔は、広がる静けさの中で一段と浮かび上がりました。

母が家を出た理由を父に聞くことはできませんでした。そして敢えて聞こうとも思いませんでした。言葉にすることで、何か決定的なものが壊れてしまいそうで怖かったからです。だから、私はひたすら日々を過ごすしかなかったのです。

やがて、母からの連絡もなくなり、私たちの家には完全に彼女の存在の影が消えました。それでも私は、自分の中で彼女を思い続けていました。彼女が戻ってくれば、すべてが元に戻るのではないか、と弱い期待を抱きながら。でも、時間が経つにつれ、それはただの幻想だと理解しました。

父とも心の距離ができてしまい、私たちは同じ家に住んでいるのにまるで別々の世界にいるようでした。父は何事にも不機嫌になりがちで、その度に私は怯えました。それでも、この絶え間ない不安の中で、私はひた隠しに家族の偽りの平穏を保とうとしていました。

そんなある日、また一人の夜、私はふと鏡を見ました。そこに映るのは、自分を失った自分の姿でした。そこで初めて、自分がどれほど疲れ切っているかを悟ったのです。家族のために、本当は何もできていなかった私。自分自身と家族の絆を失いつつあることを再確認せざるを得ませんでした。

そして今、すべてがあの頃と変わってしまった現在でも、私は立ち止まってその静寂を受け止めざるを得ません。それが私の「静かなる家族崩壊」でした。家族の絆が見えないところで断絶したことで、私の心には消えない痛みと悲しみが残されています。この心の傷は、今も私の中で静かに疼き続けているのです。私はただ、あの時経験した悲しみを抱えながら生きていかなければならないのかもしれません。[/member]

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