「静寂の家:見えない絆に縛られた日々」

【投稿者:ハルカケ(仮名)/50代・男性・大分県】

「静寂の家:見えない絆に縛られた日々」

あれは、何年前のことだろう。それでも、あの日々のことを思い出すたび、心の奥底から痛みがこみあげてくる。家族という無数の絆がいつの間にか見えない鎖になり、俺の心を蝕んでいた。俺にとってそれは避けることのできない運命であり、逃れることのできない束縛だった。

小さな頃から、家庭は静寂に包まれていた。喧騒や笑い声はほとんど聞こえず、親父はいつも疲れ果てたようにテ
[member]レビの前に座り、母親は家事に追われて無言で動き回っていた。声を掛け合うことすらなく、それが当たり前の日常だった。しかしその静寂の中に潜む緊張感は子供心にもしっかり感じ取れていた。

周りの友達の家では、家族が食卓を囲んで笑い合う姿をよく見かけた。それを羨ましく思い、俺もそんな家庭を夢見ていたが、現実は全く異なるものだった。俺の家では、何かを話せばその背後には必ずと言っていいほど重苦しい沈黙が訪れるという恐怖があった。

ある日、何かがおかしいと感じ始めた。母の顔には笑顔が消え、ただ機械的に家事をこなす自動機械のようだった。親父も帰りが遅く、家の中は一層静まり返っていった。理由を聞こうにも、聞けなかった。そうすれば、もっと大きな沈黙が返ってくるような気がしたのだ。

そしてついに、その理由が明らかになる時が来た。母は声を震わせながら「離婚する」と告げた。何がどうなったのか、俺には理解できなかった。家族はとっくに崩壊していたのに、自分の中ではまだ信じたくなかったのかもしれない。

それからというもの、家はさらに静けさを増した。母は出て行き、親父と二人だけ。どんなに努力しても、一緒に笑った記憶はほとんどない。会話をしようにも、どちらも言葉を選ぶのに疲れ果ててしまった。親父は酒に逃げるようになり、俺は自分の部屋に引きこもることが増えた。

その頃から、外の世界との関わりも極端に減っていった。学校でも必要最低限のことしか話さず、誰といても孤独感が拭えなかった。心の奥には常に虚無感が広がり、何をしても楽しくないどころか、無意味に思えた。

親父もまた、仕事での悩みや母との別れをどのように受け止めていたのか、俺には想像することすらできなかった。だが、一日の終わりに一緒に座ることもなく、それぞれの闇に向き合うだけの日々が続いた。

ある夜、親父が酔った勢いでふと言った。「家族ってなんだろうな…」。その言葉は、まるで自分自身に向けた問いかけのようで、俺も答えに詰まった。一時の被害者意識に苛まれたが、何の解決にもならなかった。

そして時が経ち、成人して家を出る時が訪れた。出口があることを知りながらも、その瞬間が怖くてたまらなかった。結局、何かを変えられるのは自分自身しかいないのだ。しかし、過去の記憶は忘れることができない。どこに行っても、その重苦しい静寂が心に影を落とし続けている。誰もが夢見る家庭への憧れはまだ消えてはいないけれど、今はただ、その無言の恐怖から逃れるためにどうすればよかったのかを悩むばかりだ。

愛することの難しさ、信頼し合うことの難しさ。自分にとって家族とは何なのか。今もなお、その答えを探し続ける旅路の中にいる。幸福を追い求める自分と、過去の悲しみの間で揺れる心。時々振り返ると、やはり変わらず感じるのは、ただただ悲しいという、その一言に尽きる。[/member]

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