【投稿者:ユキヒロ(仮名)/30代・男性・香川県】
僕が感じた一番悲惨な体験、それは父の秘密が暴かれた瞬間だった。幼い頃から家庭は一見幸せそうに見えた。母は温かく食卓を囲む家族の笑顔を守り、父は厳しくも愛情深い人だった。ただ、僕はなんとなく父に隠しごとがあるんじゃないかと薄々感じてはいた。子供ながらに、時折見せる父の遠い目や電話を切る際の緊迫感を覚えていたからだ。
あの日、母がいつになく険しい表情で父と二人きりで話し合っていた。ドアの隙間から漏れ
[member]る言葉の端々は、僕には理解できない。でも、その後に続く母の嗚咽は、何かとんでもないことが起きたのだと直感で感じさせた。どうしても気になって、僕は部屋の影からこっそり覗いていた。しばらくして母が部屋を飛び出し、その目が僕を捕えた。その瞬間、僕は彼女に抱きすくめられ、耳元で「ごめんね、本当にごめんね」と泣かれたんだ。
数日後、父が家を出ることが決まった。暴かれた秘密とは、父が別の女性と家庭を持っていたことだった。まるで悪夢のような現実を突きつけられた僕には、何が真実で何が嘘なのかが分からない。すべてが変わってしまった。戸惑いと混乱、悲しみと怒りが心の中で暴れ回り、どうやっても整理がつかない。
日を追うごとに、学校での成績が落ち始めた。以前は人一倍努力していた僕が、今では授業中にぼんやりと窓の外を眺める時間が増えてしまった。そんな僕を心配してくれた友人たちもいたけれど、「大丈夫」という言葉しか返せなかった。そして、本当のことを誰にも話せないまま、どんどん孤立していった。
「こんなはずじゃなかった」と何度も何度も自分に言い聞かせる。でも、どれだけ後悔しても元には戻れない現実がそこにはあった。僕は心の中で必死に叫んでいた。なぜ父はこんな嘘をついたのか、なぜ僕たちを裏切ってしまったのか。答えのない問いが牡蠣殻のように心に刺さって痛み続けた。
残された母との生活は決して楽ではなかった。彼女は自分の感情を押し殺し、僕を支えてくれたけれど、片親という現実が二人の関係に微妙な緊張感を漂わせた。時々、うつむく姿を見せる彼女を横目に、僕は言い知れぬ罪悪感に襲われた。父が消えた穴を埋めようとする彼女の努力と僕の不甲斐なさが、どうしようもなく心を締め付ける。
今では父は別の場所で新たな暮らしをしている。僕たちのことなど忘れてしまったかのように。時間が経っても、物事が好転することはなく、ただただ傷が癒えぬまま日々が過ぎていった。皆には幸せを装って見せるけれど、心の中では嘘に塗れた家族の絆を引きずったままだ。破れたものは元には戻らず、希望すら持てない未来が存在する。
そして、私はただ悲しみ続ける。この状況にどう向き合って良いか分からず、自分の人生がどこで間違ったのかも分からないまま。それでも、明日はやってくるのだ。どうしてしたって、僕にはこの現実しか残されていないのだから。[/member]